近年の急激な気候変動は、お米の品質と需給バランスに深刻な影響をもたらしています。本記事では、具体的な影響やその課題、今後の将来予測について解説をし、気候変動への適応策などをご紹介します。
気候変動と米づくりへの影響
お米は日本の食文化の基礎であり、日本人の食生活に深く根差す重要な穀物です。
しかし近年の急激な気候変動は、お米の生産に深刻な影響を及ぼしており、需給バランスを崩す原因にもなっています。今回は、気候変動がお米へ与える影響や、今後の予測、適応策などについて解説します。
【2024年】気候変動の現状と将来予測
米づくりに影響を及ぼす気候変動の現状と将来予測を解説します。
地球温暖化
気象庁の発表によると、2023年の日本の平均気温は観測史上最高を記録。基準地と比較して+1.29℃の上昇が見られました。過去100年間では1.35℃の割合で上昇し、とくに1990年代以降、高温年が頻発しています。この気温上昇の傾向は、気候変動が着実に進行している明確な証拠といえるでしょう。
異常気象の増加
出典:気象庁 | 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
近年、日本では豪雨や大型台風による被害が増えてきました。気象庁の観測データから、局地的な豪雨の増加は顕著で、大雨の発生頻度が高まっていることがわかります。
とくに強い雨ほど増加率が高く、300mm以上の強雨は1980年ごろと比較し、約2倍の頻度で発生しています。このような異常気象の増加は農業全体に大きな影響を及ぼし、深刻な問題となっているのです。
日本における気候変動の将来予測
「 日本の気候変動2020」では21世紀末の将来予測について、2℃上昇シナリオと4℃上昇シナリオが掲載されています。この報告書では、「気温」「降水」「台風」それぞれの項目について以下のような予測がなされています。
気温 | ・21世紀末までに年平均気温が1.4〜4.5℃上昇。
・猛暑日・熱帯夜が大幅増、冬日が減少する。 |
降水 | ・大雨や短時間強雨の頻度が増加。
・無降水日数も増加傾向にあり、降水の極端化が進行する。 |
台風 | ・強い勢力を保持しながら日本に接近する可能性が高い。
・日本の東側で台風の強度が増す傾向にある。 |
これらの予測は今後さらなる課題に直面することを示しており、社会全体で取り組んでいくことが必要です。
気候変動がお米の生育に与える影響とは
気候変動がお米の生育に与える、具体的な影響を見ていきましょう。
気温上昇による影響
近年、温暖化・ラニーニャ現象により、大気全体の温度が非常に高くなっています。これらの影響から今年の7〜9月の気温は全国的に高くなる傾向にあり、米づくりにおいては高温対策の徹底と適切な水管理が重要といえるでしょう。
高温が続く影響により、高温障害・白未熟粒の発生が注意喚起されており、収量や品質の低下が懸念されています。
今年のお米の生育状況については、全国的に十分な日照時間を確保できたことから、例年よりも早い傾向が見られます。日照時間が少ないといわれていた東北方面も、7月になれば回復するとの声が聞かれました。
集中豪雨と台風の影響
集中豪雨の影響で、冠水被害が深刻化しています。冠水被害は稲の損傷だけでなく、土壌流出を引き起こし、栄養分の損失をもたらします。
さらに2日以上水に浸かると根腐れ が起こり、稲の健全な生育を妨げる恐れがあるのです。事例として、南越前町が記録的な大雨に見舞われた際、3分の1のお米が出荷できなくなり、収穫量は7割も減少しました。
台風も、米づくりに大きな被害をもたらす要因です。強い暴風は稲を倒し、収穫量を大幅に減少させます。また稲がこすれ合うことで傷ができ、病気にかかりやすくなるケースも。さらに台風がそれた地域に直接的な被害はなくとも、フェーン現象が起こりやすくなり、高温障害の可能性を高めてしまいます。
これらの被害を最小限に抑えるには、気候変動に適応した新たな栽培方法や品種の改良が必要です。
温暖化による害虫の増加
温暖化は、お米の生育に「害虫の増加」という形で影響を及ぼしています。
福岡県では、2024年にトビイロウンカが1ヶ月程早く発生しており、その数も多いことが報告されています。この時期に発見されたのは、過去10年間のうち初めて。トビイロウンカの発生により、一部の稲が突然枯れてしまう「坪枯れ」の発生が懸念されています。
さらに、トビイロウンカは福岡県内のほぼ全域に飛来したと見られています。高温とまとまった降水量が、トビイロウンカの増殖に適した条件を作り出していると考えられるでしょう。
また、熊本でも斑点米カメムシ類の発生数が去年より増加しており、今後の被害が予想されています。
お米の品質低下が顕著
出典:農業生産における気候変動適応ガイド 水稲編|農林水産省
2024年現在、お米の収穫量の低下について大きな問題は出ていません。しかし、品質の低下が課題に挙げられています。
農研機構では、気候変動に適切な対策を講じないと、稲の早期生育よって「収量の減小」と「品質の低下」を引き起こす可能性が高いという研究結果を示しました。高温障害や稲の早期生育、害虫の増加など、さまざまな要因が品質低下に関係していると考えられます。
気候変動適応へ向けた取り組み
気候変動に適応する新たな対策として、さまざまな取り組みが行われています。
例えば、高温な環境下でも品質を維持できる高温耐性品種の開発や、白未熟粒の発生を低減する遺伝子研究、開花日をコントロールする遺伝子研究が行われています。さらに、栽培技術の改良も進んでおり、気候変動適応に向けた対策として、今後の発展が期待できるでしょう。
適応策には、即効性のあるものや長期的なものがあります。個別対応がむずかしい場合は、農業協同組合、自治体との連携と情報共有が重要です。
まとめ
気候変動は、お米づくりに高温障害や品質の低下・水害・害虫の増加など、数多くの課題を
もたらしています。気候変動適応の取り組みには、耐性品種の開発や栽培技術の改良など、総合的な対策が進められており、今後の発展に期待できる部分も多くあるでしょう。
安定したお米の供給を維持するには、生産者だけでなく行政や関係団体と連携した長期的な取り組みが不可欠といえます。